ひつじ泥棒2

Who stole my sheep?

『うろんな客』エドワード・ゴーリー/柴田元幸訳

 

20年近く前に邦訳版が発表された時、各方面でだいぶ話題になったエドワード・ゴーリー。大人の絵本作家と評されることの多い、アメリカ人絵本作家です。

ペン画の白黒のシュールな絵、シュールなお話で繰り広げられる、一見残虐で救いのない話だったり、時にクスクスと笑ってしまう、そんな不思議な世界観のお話。

シンプルな英文の中に、見たことも聞いたこともない単語(大概は古語だったりする)がおり混ざっていて、韻を踏むスタイルの文章です。

出てくるこどもがみんな死んでしまう絵本なんかもあり、気安く人にお勧めするのはちょっとためらわれることもあるのですが、わたし自身は友人から「きっと好きな感じだと思うよ」と勧められて読み始めました。友だちがあれなのか、友だちの中のわたしがあれなのかは追求しないでおきます。

 

今回この絵本のことをブログにしようと思ったきっかけは、先日書いた「ヴィレッジ・ヴァンガード」という複合書店のお茶の水店に行った時、エドワード・ゴーリーのコーナーがありまして、おおおと心が踊ったのです。

f:id:pucayu:20190415114416j:plain

エドワード・ゴーリーのコーナー

知らないうちにたくさんの翻訳が出ていました。柴田元幸すごいですね。「すごい」なんて言葉で表現するなんて、それこそ各方面から苦情がきそう。

柴田元幸とは、日本を代表する「すごい」翻訳家。小説家ではなく翻訳家の方の(と区別していいのかは別として)村上春樹と長く仕事をされていることや、フリッパーズ・ギターが好きな方(わたし)は、小沢健二が大学生の時に柴田元幸の授業(at the University of Tokyo /東京大学)をとっていたということで耳にしたことがある方もいるかもしれません(わたし)。

 

ちょうど姉と会う予定になっていたので、エドワード・ゴーリーの中でもユーモアたっぷり、キャラクターがかわいい、そして翻訳が素晴らしく、かつプレゼントしても自分の人格が疑われる心配の少ない、ユニークな一冊をプレゼントすることにしました。

その本とは『うろんな客(原題:The Doubtful Guest)』という絵本。うろんとは「正体がよくわからない、疑わしい、奇妙な」などの意味です。

うろんな客

うろんな客

 

 

絵本の中のうろんな客とは、コンバースを履いているアリクイで、見た目からしてかなりうろんな感じむんむん。これがある日突然やってきて家に勝手に住み着き、数々の悪行といいますか、シュールないたずらをしまくり、今日までなんと17年も居座っているというシュールなお話。

このアリクイが何のメタファーなのかというのは、巻末の解説にあるのですが、わかった上で絵本を読むと、これまた面白い。ちなみに家族の表情もなかなかシュールで、絵だけ眺めていても面白い。

f:id:pucayu:20190415141403j:plain

 

原文の面白さに色を添えるのが、柴田元幸の妙々たる翻訳。
この絵本は同じページに英文と訳文がある珍しいスタイル。原文の韻を踏んだリズムのある文章の世界観を崩すことなく、訳語の方は「五・七・五・七・七」とまさかの短歌で表現しています。

It wrenched off the horn from the new gramophone,

And could not be persuaded to leave it alone.

新しき 蓄音機から喇叭(らっぱ)取り

なだめどすかせど 馬耳東風

 

Every Sunday it brooded and lay on the floor,

Inconveniently close to the drawing-room door.

日曜は 陰気に床に横たわり

居間の扉の 交通妨害

さらには文末をおしゃれに四字の漢字で締めくくるなんて、こんな翻訳みたことない。クラっときます。

もう一つ面白いのは、巻末の解説部分に「普通の」翻訳もついています。ちなみに、上の引用部分の訳は、本来ならこんな感じだろうなという訳。

新しい蓄音機からラッパをもぎ取って

何と言われようと手放しません。

 

かと思うと日曜はいつも ふさぎ込んで床に横たわり

それえが居間のドアのすぐそばなものだから 邪魔だったらありません。

 

この、絵から、テキストから、翻訳から、巻末のおまけまで、余すところなく面白い絵本を、姉にもおすそ分けと思いまして。

せっかくなのでと思いの丈をブログにしてしまいました。