はじめての自分のクルマは、姉のお下がりの青いホンダでした。おさがりというより、姉がクルマを実家においたままにしていたのを、勝手に自分のものとして乗っていただけですが。
姉が高校を卒業した時に買ってもらった青いホンダ、わたしのところにきたころにはいい感じにくたびれていました。クルマやドライブが大好きというほどではないけれど、キライということもなく、ほどよい距離感をたもちつつ、仕事に行く時、休みの日、ちょっとそこまでな時も、たまに擦ったり、コツンとぶつけたりしながらも、仲良くしていました。
ずいぶん前のことなのでいろいろ記憶が飛んでいるのですが、その日の予定は、たしか日帰りの出張で、朝早くにクルマで駅へ行き、駅周辺のいつも駐車場にクルマを置いて出かけ、最終の新幹線で夜中に戻り、クルマで帰る予定でした。
駅に向かうために家を出ました。朝6時過ぎの、地方都市の人通りのまったくない静かな団地。家を出て角を3つ曲がり、道なりにゆるい坂を降りて行くと大きな通りに出ます。
自転車程度のスピードでその道なりの道に入りました。工事現場などによく停まっているような、白いバンが一台家の前に停まっていました。
ドゥオン
何が起こった?……これって、たぶん、もしかして、きっと、いや間違いなく、わたしがっつりいきました。助手席側の角が、白いバンの右後方に。ドゥオン。
慌ててクルマを降り、ドアも開けたままにぶつけた白いバンにかけよると、白いバンが停まっていたところの家からも人が出てきました。
ぶつかったであろう右手後方をみんなで見ます。見ると……、なんともない?かすり傷ひとつありません。夢?何?
そしてわたしの青のホンダをみんなで振り返ります。振り返ると……、びっくりするほどベッコリいってます。何?夢?
それはそれはびっくりするくらいのベコリ具合でした。ぶつけたショックもあってか、爆発でもしたのかくらい大破しているように見えました。
もう一度白いバンを見る。……無傷。
もう一度青いホンダを見る。……原型をとどめていない。
こんなことってあるんでしょうか。
自分の目を疑いつつ、ぶつけたことは間違いない生々しい記憶。ぶつけた感覚も手足に残っています。
ぶつけたクルマはグワシャーとつぶれ、ぶつけられたクルマは一見(あとで何かあるかもしれませんが)なんともないなんて、ちょっと信じられませんでしたが、きっと絶妙な角度でいってしまったのでしょう。
お詫びの言葉と、住所と(なんせ1分もしないくらいのご近所です)電話番号と名前を伝えると、白いバンの彼と、その家の方も出てきて、何ごともない白いバンと無残な青いホンダとぶつけたショックであわわわわとなっているわたしを見比べ「まあまあ、うちのほうはなんともないので、あのー大丈夫です。万が一何かあればご連絡しますね」ということになりました。
わたしはぐっちゃりたつぶれたクルマで自宅に戻り、結局それが青いホンダの最後の日となりました。
……という話。