かき氷小説をもう1冊読みました。 そんなにざくざく検索にひっかかかるものではないので、かき氷小説は本格的に夏がくる前に終わってしまいそうです。かき氷エッセイは比較的ありそうなのですが……。かき氷小説をご存知でしたら教えていただきたいです。
『あつあつを召し上がれ』という、食卓をめぐる7つの短編小説のひとつ、<バーバのかき氷>が今回のお話。
おばあちゃんの「バーバ」と、バーバの娘「ママ」と、バーバーの娘の娘「マユ」の3人が物語の登場人物。もういろんなことを思い出せなくなって、ほとんど食べられなくなったバーバがホームのベッドの上でつぶやいた「ふっ」「ふっ」という言葉から、《富士山の「ふ」だ、何年か前に家族みんなで食べに行った、天然の氷でつくった富士山みたいなかき氷のことだ》と解読したマユが、急いでそのかき氷を買いに行き、バーバのいるホームの部屋でその氷を3人で「おいしいねぇ」と食べるお話。
ざくっと言ってしまえばそれだけの短いお話ではありますが、マユがおばあちゃんや母親のことをどう思っているか、マユの心情、マユが氷が溶ける前にと急いかき氷を持って戻るところと、おばあちゃんの死や老い、短い中にぎしっとつまっていて、ちょぴっとほろ苦くて、切なさがくくっとこみ上げてきました。
みんなでかき氷を食べに行った時は、今は離婚してしまったパパがまだいたときで、そのかき氷屋さんのある場所が、離婚したパパが今の家族と一緒にいる町だったりとか、挿入されているエピソードも、いろんな観点からほろ苦い。
美しい形が少しずつ溶けていって、そしてなくなってしまう、メタファーとしてのかき氷って、ともすればベタすぎるのではと思うのですが、それをとても上手に、センチメンタルな方向にはなりすぎず、かき氷らしくさっぱりと仕上げたお話でした。
小川 糸は今回初めて読んだのですが(お名前はもちろん存じ上げておりましたが、読む機会がなかった)、『あつあつを召し上がれ』に収録されている他の6つの物語も、登場する食事もとてもよかったので、長編や別のお話も読んでみようと思います。
ご本人の公式サイトがとてもかわいかったです。