ひつじ泥棒2

Who stole my sheep?

汚部屋に住む

 

「全くの無関心を中心に2つの対極の意見があり、残りはそのグラデーション」というものが、わたしの基本的な考え方です。なので、よく言われる「普通こうだよね」というのも、両サイドの普通があるのだと思っています。

 

空き家に住んでいるかのような、何も持たない究極のミニマリストがいる一方で、とても人が住めるとは思えないほど、モノ(またはかつてモノだったモノ)で溢れかえった究極のマキシマリストがいるような。例えていえば。どっちがいいとか、優れているとかの話ではなくて。

 

小さなころから母に「出したらしまう」「いらないなら捨てなさい」「片付けた?」とやいやい言われて育ったわたし。片付けは得意な方ではないと思っていました。

 

ですが、ホンモノの「片付けられない人」は次元が違いました。

 

大学時代の最初のルームメイト。ミシェルのことです。入寮の初日、キャンパスライフに期待を膨らませたわたしの前に現れたミシェル。

 

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via Marie Claire - Plus-Size Spring Fashion

 

この写真を例に使って本当に申し訳ないのですが、彼女はれっきとしたファッションモデル。ミシェルは上のモデルさんをやさぐれさせ、洗い倒して胸まわりや脇まわりがだるんだるんになったタンクトップと、パッツパッツのデニムにむりやり体を詰め込んだアメリカンギャル。片手にバナナ1房、反対の手にガロン(4リットル弱)のオレンジジュースを持ってわたしの前に現れた彼女は、色々な意味でパンチが効きすぎて、初日にしてノックアウト気味のニッポン女子。大丈夫かわたしのキャンパスライフ。

 

正直全然大丈夫じゃありませんでした。この人が「片付けられない人」です。

 

彼女が部屋の奥、わたしが手前のクローゼットとベッドとデスクを使うことになりました。私たちの部屋は6階の角部屋で、眺めが良く、他の部屋よりも少し広めの部屋でした。その少し広い部屋が快適さにつながることはなく、彼女が散らかすスペースが増えただけでした。

 

最初こそ、一緒に食事に行ったり、週末でかけたりしたものの、2ヶ月が過ぎる前にはどんどんと部屋が荒れてゆき、「片付けて」「わかった週末に片付ける」の応酬が繰り返され、だんだんとわたしの側に侵食してくる汚いものを押し返しているうちに、彼女とわたしの間にもくっきりはっきりと溝ができていきました。散らかす、汚す、荒らす、溜める。どんな言葉で表現したらいいのかわかりませんが、とにかく酷かった。

 

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via wordpress

 

イメージ写真。ちなみにこちら、汚い方のイメージじゃないです。ミシェル的に「まあまあきれいな方」のイメージ写真。教科書と真っ黒になったバナナと脱いだ大きいパンツ(ランジェリーの方の)が一緒に枕元にあるのを見たときのあの衝撃は、世紀をまたいだ今でも忘れることができません。胸をときめかせたキャンパスライフ、まさかの汚部屋での生活で幕が開くことになるとは想像もしませんでした。

 

大学が始まる9月から住み始めたのですが、クリスマスを迎える頃にはにはわたしの感覚もすっかり麻痺し、すぐ目の前に異世界が広がっているにも関わらず、存在しないものとして暮らしていました。人って自分の理解を超えるものごとにたいして、鈍感になるというか、五感をシャットアウトしてしまうものなのかもしれません。

 

それまで自分は片付けが得意ではないと思っていたわたしも、ああわたしは明らかにそっち側の人ではないんだと自覚できました。わたしの普通はこっち側。彼女の普通はそっち側なんだなと。

 

今はどんな大人になっているんだろう、ミシェル。その後の大学生活で、2人のルームメイトと一緒に住み、彼女たちとは今でも折に触れて連絡を取る友人ですが、ミシェルとは音信不通です。